長野県上田市真田町の地蔵峠。標高975mの高地に位置する日帰り温泉施設「十福の湯」。
「標高1000mのおもてなし」をコンセプトに、多くの来館者を迎えている県内でも屈指の人気温浴施設です。
長野県最大級の露天風呂をはじめ、四季折々の自然を楽しめるロケーション、石窯ピザや手打ち蕎麦など地産地消にこだわった食事も人気です。

運営するのは長野市の日本レクシー株式会社。不動産事業からスタートし、信州エリアの日帰り温泉施設の運営や再生を数多く手掛けてきました。
今回は、日本レクシー株式会社 代表取締役の熊原社長とスタッフの増澤さんに、薪サウナ導入の経緯と、その後の変化についてお話を伺いました。

2台のMS70Ⅱが生み出す『双炎サウナ』
十福の湯の浴室は毎日男女が入れ替わる仕組みになっています。
今回、MOKIの薪サウナストーブ「MS70Ⅱ」を導入したのは、入口を入って左側の浴室にあるサウナ室です。
室内容積は35㎥を超え、12~14名が利用できる広さ。薪サウナへのリニューアルを機に、このサウナは『双炎サウナ』と名付けられました。
名前の由来は、2台並んで設置されたMS70Ⅱ。
さらに左右のストーブで異なるサウナストーンを採用し、一方には輝緑岩、もう一方には浅間石を使用するなど、利用者がそれぞれの違いを楽しめる演出も施されています。

実はサウナに入らなかった社長
現在ではサウナを施設の大きな魅力と捉える熊原社長ですが、実はもともとはサウナ愛好家ではありませんでした。「正直、サウナは苦手でした。5分も入っていられないし、水風呂も好きではなかったんです。」
開業から24年を迎える施設の中で、サウナ設備の改修は後回しになっていました。
しかし、施設全体をより良くしたいという思いから、サウナについて改めて研究を始めます。
もともと興味を持つと徹底的に調べる性格だという社長は、全国各地のサウナ施設を視察するようになりました。
その中で大きな転機となったのが、長野県信濃町の人気施設「The Sauna」でした。
大雪の日に出会った薪サウナ
The Saunaを訪れた日は大雪でした。
キャンセルが相次ぎ、利用客は社長一人。
結果として、その静かな環境が薪サウナとじっくり向き合う時間になったといいます。
「不思議だったんです。普段なら長く入れないのに、薪サウナだと心地よく過ごせた。」
その後もさまざまな施設を訪れる中で、薪サウナへの関心は徐々に確信へと変わっていきました。
そして決定的だったのが、ある施設で交わした女性利用者との会話でした。
「サウナは薪だと好きなんです。」
その一言に、薪サウナならこれまでサウナを敬遠していた人たちにも新しい価値を届けられる可能性を感じたといいます。

視察先で何度も出会ったMOKI
薪サウナを研究する中で、熊原社長は何度もMOKIのストーブと出会いました。
「丸窓とボルトの無骨なデザインが印象的でした。」
もともとMOKIの存在は知っていましたが、視察先で実際に稼働する姿を見るたびに興味は深まっていきます。
最初はお忍びでMOKIのショールームを訪問。
スタッフの明るい対応にも好印象を持ったそうです。

そして2回目の訪問時には、MOKIスタッフとして薪サウナ事業に携わる一方、個人でもサウナ施設の立ち上げ支援や情報発信活動を行うkorkein氏を紹介されました。
ストーブの性能だけではなく、施設運営やオペレーションまで含めて相談できたことが、導入計画を具体化する後押しになったといいます。
社内の反応は予想以上に厳しかった
しかし、導入への道のりは順調だったわけではありません。
社長は以前から薪サウナ構想を少しずつ社内で話していましたが、スタッフの反応は予想以上に厳しいものでした。
理由は明確です。
実は老朽化対策として、薪ストーブ導入のわずか1年前にサウナを改装したばかりだったのです。
しかも新たに導入したのは電気ストーブでした。
「去年新しいストーブにしたばかりですよ」
スタッフさんから、そんな率直な意見もあったと振り返ります。
さらに当時は慢性的な人手不足の状況。
「30分に1回見に行くなんて無理です。」
薪サウナ特有の運営負荷への不安も大きかったそうです。
それでもkorkein氏によるオリエンテーションや情報共有を重ねながら、一つずつ不安を解消。
議論を重ねた結果、薪サウナ導入へ踏み切ることになりました。
平日夜の集客が変わった
双炎サウナがオープンしたのは2026年4月。
SNSや口コミ、サウナ専門サイトなどで話題となり、多くの来館者が訪れるようになりました。
特に実感しているのは、これまで課題だった平日夜の集客です。
従来は少なかった女性サウナ利用者も増加。
ゴールデンウィークには若いグループ客や県外からの来館者も目立つようになりました。
物価高騰や光熱費上昇の影響で温浴施設業界全体が厳しい状況にある中、十福の湯は前年比で大きなプラスを記録しています。
「サウナを目的に来てくださる方が確実に増えました。」と語る増澤さん。
サウナを軸とした集客や物販展開が成果につながっていることを実感しているそうです。


不安だった運営がチームを変えた
一方で、運営面に苦労がなかったわけではありません。
導入当初は火が消えてしまうこともありました。
利用者の出入りが多い日は温度管理も難しく、試行錯誤の連続だったといいます。
しかし、その経験が結果的にチームづくりにつながりました。
スタッフはみな双炎サウナのロゴが入ったTシャツを着用し、それぞれがサウナ運営に関わるようになりました。
「”双炎の火を消すな”という合言葉で30分ごとの薪くべを聖火リレーのような気持ちで取り組んでいます。」
ある日、サウナの温度が下がってしまった際には、普段はカフェを担当するバリスタが復旧に奔走。
その対応に対して、利用者から感謝のコメントが寄せられたこともありました。
「薪をくべるだけで終わらせないようにもしています。」
薪投入やロウリュの際には、利用者へ一言声を掛けたり、サウナについて説明したりすることを心掛けているそうです。
温浴施設では、お客様と長く会話する機会は意外と多くありません。
薪サウナの世話をする1~2分はお客様と会話する貴重な時間にもなりました。
導入当初は、korkein氏が立ち上げ支援の一環として現場フォローを実施。焚き付けから温度管理、利用者対応などについて伴走したことも、スムーズな定着につながりました。


「標高1000mのおもてなし」をさらに厚くするために
十福の湯では現在も新しい挑戦を続けています。
最近では、通常営業前の時間帯に両方のサウナを楽しめる特別イベントを企画。
初めての試みでしたが、予約はすぐに埋まりました。
寝湯や壺湯など、新たなコンテンツの充実にも取り組んでいます。
現在は双炎サウナのある浴室側の人気が高まっていますが、熊原社長は「次の一手も必要」と語ります。
来年、十福の湯は開業25周年を迎えます。
「双炎サウナのロゴにも使われている炎は「人」という文字を表しています。
人と人とのつながりを大切にしたいという想いを込めているんです。」
薪サウナは単なる設備更新ではありませんでした。
それは、「標高1000mのおもてなし」をさらに厚くするための新しい挑戦だったのです。
「来年に向けて、また新しい仕掛けを考えています。」
そう語る熊原社長の表情からは、次の挑戦を楽しむ温浴施設経営者としての熱意が伝わってきました。

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